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四十歳になってみると、子育てにも仕事にも余裕が出てきたことによって、目の前私が大学を卒業して勤めたK池一子さんの事務所で、ある時開店のポスターを制作したことがあった。
K池さんイラストは、どこまでも晴れ渡った青空に、人が手をつなぎ輪になって踊りながら登っていくというものだった。
すっかり忘れていたニ十代の初めの頃の、そんなポスターの絵が頭の中に鮮やかに建ってきた。夫と娘と三人で、空を、手をつないで舞っているといった清々しいイメージである。
同時に夫との関係も変わってきた。私たちは結婚当初、何があってもお互いを「お父さん」「お母さん」とは呼ばないようにしようと決めていた。

父親、母親は子供に対しての立場であり、私たち二人はあくまで夫と妻である。家族という形の中に埋没させて、夫と妻の役割を手離すかわりに父母という免罪符を手にすでにメラメラと燃えていた火が落ちついたかのように静かになり、視野が澄んできたのである。
夫と娘と自分という、一二人の姿がきれいな輪郭をとって見えてきた。そんなことはしたくないと話し合ってきた。
そのために少しでも二人だけの時間を持てるように工夫しようとしたし、二人で過ごす時間を大切に考えたいと思ってきた。
三十代の十年間は、ほとんど実現できなかった。
いや、実際には何度も夫婦だけで出かけることはあったが、気持ちがついていかなかった。二人で向き合うよりも、子供に対して同じ方向を向くことを余儀なくされ、それに充実感がなかったといえば嘘になるが、フラストレーションも多かった。

今、人心地ついた、ゆっくりとした気持ちで見渡せば、そこには夫という存在がいて、今まで見慣れていた"父親″という姿とはまったく違うものなのだった。ファッションのスタイルがようやく決まったのも三十代の終わり頃で、そこに至るまでの道は重く苦しいものだった。
四十歳を迎えると、スーツと目の前の霧が晴れるような明るさを覚えた。
軽いもの、軽やかな生き方というものが急にクローズアップされてきたのである。
私は新たな気持ちで、鏡の前に立ったのである。ファッションの好みも変化した。
三十代の、特に後半は"マダムになりたい"時期だった。つまりもっと大人に見られたい、もっと風格ある雰囲気を身につけたいと思いきり背のびをしていたのである。


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